無料論文アーカイブ「PMC」とは?メリットや申請方法を解説
「PMC」とは、米国の国立医学図書館にある、生物医学・生命科学分野のジャーナルのオンライン論文アーカイブです。
そこに論文を収載することで、執筆者・出版元はさまざまな恩恵を受けることができます。収載のメリットと条件、申請方法について解説します。
そもそもPMCとは? その特徴と目的
「PMC」は、アメリカの国立医学図書館(NLM)にある、生物医学・生命科学分野のジャーナルのオンラインアーカイブです。
NLMのうちの1部門であるアメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)が、膨大な量の論文等の文献をフルテキストの1次情報データベースとして管理・保管・運用し、インターネット上でオープンアクセス(無料で閲覧ができる)にしているデータベースです。PMCはNLMの保管している印刷物やジャーナルのデジタル版としても機能しています。
※PMC上にある論文は自由に使えますが、著作権は論文執筆者/出版社に帰属しています。
1999年3月、ノーベル賞受賞者でもある当時の所長ハロルド・ヴァーマス氏が、生物医学分野の論文・収録などの研究成果を無料で閲覧できるオンラインサービスを提案したことを契機に、PMCの前身である「PubMed Central(パブメド・セントラル)」が創設されました。翌年の2000年2月にサービスがスタートしました。当初はPNAS: Proceedings of the National Academy of SciencesとMolecular Biology of the Cellの2誌のみからなるアーカイブでしたが、現在では数千ものジャーナルから論文を収集するアーカイブに成長しました。
2022年8月現在、検索できる記事数は700万以上に上ります。1700年代後半から現在までの数世紀にわたる生物医学および生命科学分野の論文を閲覧できます。
MEDLINE・PubMedとの相違点
医学系の研究者にとって、なくてはならない「MEDLINE(メドライン)」と「PubMed(パブメド)」。この2つはPMCとどんな違いがあり、どのような関係があるのでしょうか。
MEDLINEとは、NLMが管理・運営する生物医学・生命科学分野の文献の2次情報データベースで、論文のアブストラクト・著者・発行年などの書誌情報だけを掲載しています。現在では、世界中で発行された生物医学・生命科学のジャーナル記事の2600万本以上を参照することができます。MEDLINE に収載する文献は信頼性が高いものに限定され、MEDLINE委員会による非常に厳しい審査をパスすることが必要です。一方で、PMCはある一定の条件を満たせば収載することが可能で、MEDLINEよりその審査を通過することは比較的容易です。MEDLINEが書誌情報のみであるのに対して、PMCでは全文がオープンアクセスで閲覧可能となっています。
また、PubMedは、PMCと同様にNLMが運営主体となって提供している無料検索エンジンです。PubMed で検索できるのは、MEDLINEデータベース以外にも、PMCのデータや米国内で提供される情報だけを扱っているWebサイト「MedlinePlus」のデータがあります。PMCは2000年のスタート当初、「PubMed Central」という名称でした。しかし、検索エンジンであるPubMed との混同を避けるために、2012年にPMCに名称変更を行いました。
PMCの検索方法と活用方法
生物医学・生命科学分野の論文を書く際には、PMCの情報が欠かせません。
PMCを用いて検索する方法を解説していきます。
①最初に、PMCのホームページ(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/)にアクセスし、キーワードを入れて検索します。
➁キーワード入力欄の左にあるドロップダウンリストから、検索するデータベースを絞ることができます。PMCはPubMedとは相互にリンクしていて、ここでPubMedを選択して検索すると、そのままPubMedのホームページに遷移して検索結果を出します。
もっとも、ほとんどの論文はPMCに収載されているので、特別な理由がない限りはデフォルトのPMCのままが良いでしょう。
③PMCでは、目当ての論文が検出されたら、論文名をクリックすることで全文表示となります。そのままPMCの画面でも閲覧することができますが、論文の表示画面右上にある「Formats」から、「PubReader」「ePub」「PDF」「Citation」の4つの表示形式を選ぶことも可能です。
多くの場合、PMCでの閲覧が推奨されます。PMCでは画面の右側に、PubMedに収載されている類似論文へのリンクが表示されたり、文献の引用個所のすぐ横に文献情報やリンクが表示されたりしていて、クリックするだけでリンク先に飛ぶのでとても便利です。
PMCに収載するには? メリットと審査基準
論文がPMCに収載される1番のメリットは、多くの生物医学・生命科学分野の研究者が閲覧・参照するPubMedでの検索にヒットするようになることです。また、アブストラクト・書誌情報に加えて、論文の全文が掲載されるのもPMCならではのメリットです。
論文が世界中の研究者の目に触れることで、引用される機会が増えるのはもちろんのこと、同じ研究をする人との人脈ができたり、関連するプロジェクトに関わる機会ができる可能性も広がるので、論文執筆者にとって論文がPMCに収載されるメリットは非常に大きいです。
PMCへの収載を申請できるのはジャーナル単位であり、論文単位では収載することができません。つまり、PMCに論文を収載されるためには、PMCと契約を結んだジャーナルに論文を掲載することが必須です。論文を掲載するジャーナルを決める際には、PMCに収載できるか否かも検討要素の1つとすると良いでしょう。
なお、審査基準はMEDLINEほど厳しくはありませんが、次の項でご説明する要件・技術審査をクリアする必要があります。
PMC収載のための申請手順とプロセス
PMCに収載申請をするためには、電子ジャーナル・紙媒体ジャーナルにかかわらず、以下の要件を満たす必要があります。
・ISSNを取得していること
・生命科学分野のジャーナルであること
・創刊から2年以上経っていること
・査読済の論文を25以上出版していること
・英文誌であること
・ジャーナルのWebサイトが英語で公開されていること
以上の条件をクリアすると、申請が可能となります。申請には、ジャーナルのタイトルとISSN、創刊年月日と発行頻度(月刊・季刊など)、ジャーナルの英文サイトのURLと記載されている情報(編集委員会・編集ポリシー・査読プロセス・人権および動物の権利・インフォームドコンセント等)を提出します。
またPMCに収載する論文データは、PMCの規格に基づくXML形式で発行元が作成・提供します。そのため、申請にはXMLファイルの作成技術が必要です。サンプルデータについてPMCから修正の指摘があった場合は、都度修正し、合格するまでデータを送ります。
提出した情報とサンプルデータをもとに審査が行われ、合格すればいよいよPMCとの契約の手続きをします。万が一、審査に落ちてしまった場合、2年経過するまで再申請はできません。
収載にはXMLファイルの作成が条件
PMCにデータを収載するには、XMLファイルの知識・作成技術が必要です。Wordで作った文書をオンライン変換ツールでXMLに変換する方法もありますが、完全に変換されない場合もあるうえに、PMCの指定する規格に合っているか否かの確認も必要です。PMCとのやりとりは英語で行う必要もあり、それらのスキルを備えた人材の確保は簡単ではありません。
PMCの申請と掲載の委託
SOUBUN.COMでは、XML変換に加えてPMCへの申請代行サービスも行っています。申請時のサンプル作りの時だけでなく、契約後も継続して論文データのXML変換は必要になるため、専門知識があり、経験豊富な業者を活用するのも1つの方法です。
PMCへの掲載は、論文執筆者のメリットになるだけでなく、ジャーナルとしての信頼度も上がり、論文投稿数の増加も見込むことができるため、発行元にとっても大きなメリットとなります。申請・契約時に必要なネイティブとの英語のやりとりやXMLファイル作成などはハードルが高いですが、代行サービスの利用も視野に入れて、ぜひチャレンジしてみましょう。